五年ほど前に、忘れられない、忘れてはいけない出来事がありました。
その会社はロードサイド酒販店で関西で5店舗を展開していました。
地方の酒販店が発祥で、その地方の酒販店が軌道に乗り、店舗展開もし、2代目社長が満を辞して関西中心部への進出を決めた、とのことでした。想像するに、先代が作った会社を運営するだけでは自分の力ではない、という考えがあったのではないでしょうか。私も同族ではありませんが2代目ですので、その気持ちはよくわかります。
でも私に依頼があった時には既に財務諸表はボロボロでした。
売上は一定水準を保っていましたが前年割れ、粗利益率は15パーセントを切り、親会社のメインバンクからの多大な借入金はリスケジュール中、資金繰りを回すために親会社からの借入金、その他にも親族からの借入金、消費税や社会保険料も滞納、、どう見ても時間の問題、でした。
もちろん社長には売上アップと原価率アップ、経費削減の方策を練りましょう、と提言しました。
社長からは、そんなことはわかっている、一流のコンサルタント会社に入ってもらって改善中だから今は我慢の時だ、との返答でした。
そう言われ、私も一流のコンサルタント会社に任せるしかないか、と深追いしませんでした。
そしてある日、弁護士から債権額確認の通知がありました。社長の携帯はもちろん通じません。
後日紹介者からは、自宅に携帯を置いたまま失踪してしまった、と聞きました。
私は文字通り無力でした。こうなることを十分に予見できていたのに。
みるみる憔悴し、白髪が増える一方の社長を私は見殺しにしたのです。50人以上の従業員、取引先の人生を変えてしまった。
財務の専門家?
財布を公開してもらい、財布が無くなるのを黙って見ているのが財務の専門家なのか。
嫌われても、怒鳴られても、現実を直視し指摘し、共に歩んで行くのが使命なのではないのか。
可能なら今すぐ5年前に戻り、シナジーを生む会社に承継するよう助言したい。承継会社を全力で探したい。
経営ノウハウがあり、スケールメリットで原価を下げられ、店舗拡大意欲旺盛な同業、商品力があり販売先の開拓をしている川上の他業種、きっと見つかるはず。
対価が0でも親会社で再起が図れた。社員の雇用も守れた。取引先への影響も最小限に出来た。
二度と目を背けないこと、これが私に出来る唯一の贖罪である。
都